刀剣入門

剣とは

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「剣」(つるぎ/けん)と言えば、アニメやゲームに登場する西洋の騎士が扱っている物というイメージがあるのではないでしょうか。しかし、剣はれっきとした日本刀の一種。西洋の剣とはルーツが異なる、由緒正しい歴史があるのです。剣の定義と語源、中国剣と西洋剣との関係、「刀剣コレクション名古屋・丸の内」展示の剣について、詳しくご紹介します。

剣とは

剣の定義と語源

日本刀の一種である「剣」(つるぎ/けん)とは、弥生時代初期(紀元前2世紀)頃に、中国(漢)から伝来した、両刃(もろは:両側に刃がある)で直刀のことです。

の語源には、剣が「突く」、「貫く」ことに特化している武器のため、「ツラヌキ」のラとヌが詰って、「ツルギ」と呼ばれるようになったという説や、剣は先が尖っていて、まるで鹿の角のようだから「角鹿」(つのが)が訛って「ツルギ」になったなど諸説あります。

草薙剣とヤマタノオロチ

草薙剣とヤマタノオロチ

「剣」と初めて記載された書物は、720年(養老4年)に編纂された「日本書紀」であり、そこには「草薙剣」(くさなぎのつるぎ)が登場します。

草薙剣と言えば、天皇が皇位の印として受け継ぐ「三種の神器」のひとつ。別名「天叢雲剣」(あめのむらくものつるぎ/あまのむらくものつるぎ)です。日本神話で「スサノオノミコト」が大蛇「ヤマタノオロチ」を退治したときに大蛇の腹から出てきたという剣。

姿についての正式な記録はなく、平安時代末期の初見によれば、両刃の剣で鉄を掛け、(つか)には絹糸が巻かれてあったということ。「日本武尊」(ヤマトタケルノミコト:古代日本の皇族で英雄)が「熱田神宮」(現在の愛知県名古屋市)に奉納し、現在も熱田神宮の御神体となっています。

中国剣と西洋剣との関係

中国剣の歴史

このように、日本へは弥生時代初期(紀元前2世紀)頃、漢から伝来した剣ですが、そのあと日本では武具としてはほとんど使用されませんでした。平安時代後期には、日本独自の片刃で反りのある刀剣「日本刀」が誕生し、剣は儀仗用の神剣、僧侶の護持剣、密教法具として扱われるようになったのです。

中国の青銅製の剣

中国の青銅製の剣

ここでもう一度、日本の剣のルーツである中国剣の歴史を確認してみましょう。

中国では、殷(いん:紀元前1600~1045年)の時代には青銅製の剣、周(しゅう:紀元前1046~256年頃)の時代には鋳銅製両刃剣、秦(しん:紀元前221~220年頃)の時代には鉄剣が普及しています。漢(かん:紀元前206~220年頃)の時代には製鉄技術が進歩し、剣と共に片刃の直刀、随(581~618年)、唐(618~907年)の時代には切刃造直刀、宋(960~1297年)から明(1368~1644年)には、片刃の手刀(青竜刀)や長刀、腰刀が作られ発展しました。

日本と違い中国では、剣と刀は共に併用され続けられたのも特徴です。中国では、剣は突く物(刺突)、刀は振る物(斬撃と打撃)として使い分けられました。

なお、中国武術では「刀は百日、槍は千日、剣は万日」という言葉があります。文字通り、刀を修得するには百日掛かり、槍を修得するには千日、剣を修得するには万日掛かるという意味です。片刃の刀剣は当たれば切れてそれなりに威力がありますが、剣は1点を集中して突き刺すものなので、的がはずれてしまうと威力が全くありません。しかし、的を当てれば、一撃で相手を殺傷できるのです。一撃で殺傷できればしめたもの。だから、剣は万日掛けてでも修行する価値があるのです。

西洋剣の歴史

西洋剣のはじまりは紀元前2000年頃と言われています。青銅器時代に作られたフリント(岩石)の剣が北欧デンマークで出土しました。

紀元前1200年頃にはヒッタイト人によって鉄器が用いられ、エジプト、ギリシャ、ローマでは身幅が広く寸法が短い両刃の鉄剣が作られました。古代ローマを代表する鉄剣としては「グラディウス」(刃長45~68cm)が有名です。

中世に入ると、長剣の「ブロードソード」(刃長76~114cm)や「ロングソード」(刃長102~122cm)、「グレートソード」(刃長127~183cm)が普及。また近世になると、貴族の決闘用に発達した細身の剣が生まれ、現在の「フェンシング」と呼ばれる武技に発達するのです。

このように、中国剣と西洋剣とではルーツも発達史も全く異なります。日本の剣は、中国剣がルーツ。日本刀も中国から多大な影響を受けているのです。

「刀剣コレクション名古屋・丸の内」に展示されている剣

愛知県名古屋市中区丸の内の「東建コーポレーション本社ビル」には、1階に「刀剣コレクション名古屋・丸の内」という展示ルームがあります。刀剣をはじめ、甲冑(鎧兜)火縄銃など、美術的に価値の高い様々な武具を展示。バーチャル刀剣博物館「刀剣ワールド」で紹介している刀剣や甲冑などを、実際に観ることのできる貴重な施設です。

ここでは、そのなかから2振の刀剣をご紹介します。

大和古剣 無銘

本剣は、無銘(むめい)の大和古剣(やまとこけん)です。大和国(現在の奈良県)の刀鍛冶は寺院に召し抱えられ、実戦用ではなく密教法具や僧侶の所持品として剣を数多く作刀しました。

(しのぎ)が高い、両鎬造り地鉄は沈みがちによくんだ小板目肌で、柾目(まさめ)交じり。刃文直刃(すぐは)で湾れ調(のたれちょう)。表裏には、下(はばきした)まで掻き出す鋭敏な鎬樋が入り、見事です。

大和古剣 無銘
大和古剣 無銘
無銘
鑑定区分
特別保存刀剣
刃長
23.3
所蔵・伝来
刀剣ワールド財団
〔 東建コーポレーション 〕

剣 銘 肥前国住近江大掾藤原忠廣作

本剣を作刀した「近江大掾藤原忠廣」は、肥前国(現在の佐賀県長崎県)で活躍した刀工で、神社への奉納の剣を数多く手掛けている人物。

本剣は、地鉄が柾目肌。刃文は直刃で、帽子(ぼうし)は表裏両側とも乱れ込んでいるのが特徴です。刀身の表側には、太樋(ふとひ)と神号「天照皇太神」(あまてらすすめおおかみ)の彫り、裏側は、梵字(ぼんじ)重ね(なかご)に作者と年紀銘が見られ、いずれかの神社に奉納されていたと思われる神聖な1振です。

剣 銘 肥前国住近江大掾藤原忠廣作
剣 銘 肥前国住近江大掾藤原忠廣作
肥前国住近江大掾藤原忠廣作
寛文元年辛巳閏
八月吉日
鑑定区分
保存刀剣
刃長
40.2
所蔵・伝来
刀剣ワールド財団
〔 東建コーポレーション 〕

古剣 無銘

無銘である本剣は、平安時代頃に作刀されたと考えられており、身幅がやや広く、鋒/切先に向かって先細るような姿をしています。良くつんだ鍛え肌には板目肌と柾目肌が交じって地沸が付き、刃文は直刃調にほつれ、二重ごころがある、見事な切刃造りの剣です。

両側に刃を持った両刃の直刀で、刺突や打撃に優れた形状をしています。本剣の最大の特徴は、中心に彫られた2筋の彫刻。しかし、他に類を見ない彫物であるため、この彫物がどのような意味を持っているのかはいまだ明らかになっていません。

また、本剣のような切刃造りの剣は、他に2口程度が知られているのみであるため、大変珍しい1振。彫物の異風さや出来の美しさもさることながら、平安時代前後に作刀された彫刻がある剣は大変貴重であることから、本剣は唯一の資料として特別重要刀剣に指定されています。

古剣 無銘
古剣 無銘
古剣 無銘
時代
平安時代
鑑定区分
特別重要刀剣
所蔵・伝来
刀剣ワールド財団
〔 東建コーポレーション 〕

上古刀(森将軍塚古墳出土)

本剣は、長野県千曲市に存在する「埴科古墳群」内のひとつ「森将軍塚古墳」より出土したと伝わる上古刀です。出土地である森将軍塚古墳は、4世紀中頃に築造されたと考えられており、全長100メートルもある巨大な前方後円墳。本剣の他にも槍などの武具や、翡翠で作られた勾玉、三角縁神獣鏡など、剣・玉・鏡が揃って埋葬されていた珍しい古墳であるとされます。

本剣は95.5cmもの刃長を持った、両鎬で、両刃造りの姿をした直刀です。古墳時代の刀剣は、平造りや切刃造りであることがほとんどですが、本剣は中心に寄った鎬(しのぎ:刀剣の鍔元から鋒/切先にかけて走っている稜線)があり、両側に刃が付いた両刃造りと呼ばれる造込み。

経年による腐蝕があるため見えにくくなっていますが、本剣の地鉄は鉄質が良く、大板目肌に流れ肌の交じった美しい鍛え肌に、地景が入り地沸の良く付いた繊細な刃文を確認することができます。

上古刀(両刃造り)
上古刀(両刃造り)
無銘
鑑定区分
未鑑定
刃長
95.5
所蔵・伝来
刀剣ワールド財団
〔 東建コーポレーション 〕
寄託

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