日本刀は、実際に手に持って鑑賞することができる美術品です。そのため、日本刀を美術館や博物館で鑑賞するうちに、「もっと間近で、手に持って鑑賞してみたい」と思うようになる刀剣ファンも少なくありません。昨今の刀剣ブームにより、全国各地で「刀剣鑑賞会」が多く開催されるようになりましたが、一方で「刀剣鑑賞会は難しそう」と言う不安を感じて、参加できないと言う方も多いです。刀剣鑑賞会に参加するにあたり、事前に知っておくと便利なマナーや、鑑賞する際のポイントをご紹介します。
刀剣鑑賞会
「刀剣鑑賞会」とは、刀剣を手に取って、刀の美しさを鑑賞する会のこと。
日本刀は、一見するとどれも同じ形状に見えますが、作刀された年代や地域、作刀者によって、部位の形状や「地鉄」(じがね)と呼ばれる刀身(とうしん)の表面に付く模様が異なります。そのため、刀剣愛好家は形状や地鉄の特徴を観て「この刀は、いつの時代に、どの流派の刀工が作刀した刀だな」と推測することができるのです。
作刀年代や地域は、事前に特徴などを調べておくことである程度推測することができますが、展覧会などのガラスケース越しでは、じっくりと鑑賞することはできません。その理由は、展覧会では自分以外にも大勢の人が鑑賞しており、1ヵ所に長時間留まってしまうと他の人の迷惑になることがあるため。
また、刀身の模様は光の加減や角度で見え方が変わるため、どれほど熱心にガラスケース越しに観察しても、その刀身の模様をすべて観ることはできないのです。1振の刀をじっくりと細部まで鑑賞するには、実際に手に取って、光に当てながら、様々な角度から観る必要があります。
初心者向けの刀剣鑑賞会では、実際に刀剣を鑑賞する前に、初歩的な知識の説明を行うことが多いです。しかし、日本刀は難しい専門用語が多く、各時代、各地域で活躍した刀工によってその特徴は様々。そのため、初心者の方は刀剣鑑賞会へ行く前に部位の名称や、日本刀の主な5つの生産地である「五箇伝」(ごかでん)をはじめとした基本的な刀剣用語を調べてから行くことをおすすめします。
なお、刀剣用語をはじめからすべて覚えるのは大変なため、画像と照らし合わせながら学ぶと効率よく覚えることが可能です。刀剣用語を覚える上で1番の近道は、実際に様々な年代や流派の日本刀を鑑賞して、その違いを比較することと言われています。
刀剣鑑賞会の服装
日本刀は、刀身を目線よりも上に上げて地鉄などを鑑賞するため、腕を動かしづらい窮屈な服は避け、動きやすい服装にするのが望ましいです。
なお、動きやすい服と言っても袖や裾がひらひらとした服は、鑑賞している最中に刀身が引っかかって、思わぬ事故につながる恐れがあるため、そういった服装は、避けた方が良いと言われています。
指輪やブレスレット、腕時計などの金属製品は、刀身を傷付ける恐れがあるため、鑑賞する際は事前に外すのが一般的です。また、この他にも鑑賞中に質問をする際、息や唾(つば)が刀身にかかることを防ぐ目的で、マスクの着用が推奨されることもあります。
刀剣鑑賞会は、横一列に並んで、1人1振の刀を鑑賞するのが基本です。初心者のなかには、日本刀を手に取った興奮から無意識に刀を動かしてしまう人がいますが、むやみに刀を振り回すと、刀剣を傷付けるだけではなく、周囲の人や自分自身が怪我を負う恐れもあります。初心者を対象とした刀剣鑑賞会では、最初に刀剣の扱いに関する注意事項を主催側が喚起することがほとんどです。
基本的に、主催側から説明されるマナーやルールに従っていれば問題ありませんが、それに反する不適切な行為があった場合、強制的に退場させられることもあります。
刀に一礼する
鑑賞する刀に一礼をする理由は主に2つ。ひとつ目は、刀の所有者へ対するお礼。刀剣鑑賞会で鑑賞することができる刀は、所有者がいない刀ではなく、刀剣愛好家の方が所有している、世界にたった1振の刀です。様々な所有者を経て、現代に残る刀は美術品としてだけではなく、文化財としても貴重な1振。それを間近で見せてもらう、という感謝を込めて一礼をするのです。
2つ目の理由は、刀を鍛えた刀匠への敬意を表するため。どのような美術工芸品でもそうですが、その作品には必ず制作者が存在します。そして、刀匠が鍛えた作は、そのすべてが現存しているとは限りません。作刀されてから現代に至るまでに、合戦によって失われたり、廃刀令などで破棄されたりして、ほとんど現存数が残っていない刀匠も多いのです。美しく、貴重な1振を作刀した刀匠を思い描きながら刀に一礼をすることで、深い関心を持って刀剣を鑑賞することができるようになります。
姿を観る
刀剣鑑賞会では、刀は「刀枕」(かたなまくら)と呼ばれるクッションの上に置かれているのが一般的です。そのため、刀を持ち上げる際は、柄(つか)に収める部位である「茎」(なかご)を両手で持ち、鋒/切先(きっさき)が床やテーブルなどにぶつからないよう、慎重に動かして、真っ直ぐに立てて「姿」を観ます。
姿とは、刀の反り具合や鋒/切先の大きさ、身幅(みはば:刀の幅)など、全体的な形のこと。反り具合や鋒/切先の大きさ、身幅と言った特徴は、作刀年代や作刀流派によって様々であるため、事前に自分がどのような刀を鑑賞するのかを調べてから鑑賞会に臨めば、その刀の特徴をしっかり意識して鑑賞することができます。
なお、刀身を持ち上げるときや真っ直ぐに立てるときに、茎ではなく刀身そのものに触れると錆の原因になるため、刀身に指が触れてしまった場合はすみやかに主催者の方へ申告するのがマナーです。
刃文を観る
刃文とは、刃に沿って現われる模様のことで、刀匠の個性が最も表われる部位です。鑑賞する際は、鉄砲を構えるようにして鋒/切先を前方、茎を自分の体側へ向け、ライトの光を使って刃文を観ます。
刀身にライトを当てることで、見えなかった刃文が浮かび上がるように見えるのが面白い点。反射させる光の角度によって見え方が変化するため、様々な角度で観ることをおすすめします。
刀をもとの場所へ置く際は、持ち上げたときと反対の動きで行うのがポイント。このとき、指が刀身に触れないようにする他、鋒/切先が床やテーブルにぶつからないようにするという意識も忘れずに。
そして、刀へ向かって「ありがとうございました」の一礼をします。はじめは、こうした動作を忘れてしまうことがありますが、何度か参加するうちに自然とできるようになるため、焦らず、楽しむことが大事です。