昨今、海外では日本刀の人気が高まっています。アニメや漫画のサブカルチャー、ユネスコ無形文化遺産に登録された和食など、クールジャパンブームが、日本刀人気を後押ししている現状です。日本刀と海外のかかわりについて、いつ頃から始まり、どのように広まったのか、ご紹介したいと思います。
日本刀が海外に輸出されるようになったのは平安時代からです。中国・北宋時代の文人・詩人・政治家である「欧陽脩」(おうようしゅう:1007~1072年[寛弘4年~延久4年])は、「日本刀歌」(にほんとうか)という詩を残しています。
訳すると「宝刀が近く日本国で発見され、越の商人が青い海の東でこれを得た。鮫皮が香木の鞘[さや]に装着されており、金銀混ざっているのは、真鍮と銅。[中略]佩刀[はいとう]すれば、凶事を祓うことができる。」という意味です。この記載から、鞘は鮫皮が使われており、当時の中国においても日本刀が武器以上の神聖な物として見なされていたことが窺えます。
ヨーロッパやアメリカ各地のミュージアムで、日本刀を見かけることがあります。これらの刀は主に貴族や実業家のコレクション寄贈によるものですが、海外のミュージアムは日本刀を芸術品として海外に周知する役目を担ってきました。その代表例をご紹介します。
ヴィクトリア&アルバート博物館
「ヴィクトリア女王」(1819~1901年)と夫「アルバート公」(1819~1861年)が1851年のロンドン万国博来館での収益をもとに開館しました。
当初は産業博物館と呼ばれていましたが、装飾美術館に改名し、さらに1899年「ヴィクトリア&アルバート博物館」と改称。
本館はイギリス・ロンドンのケンジントンにあり、世界中から集められた美術工芸品、服飾など約450万点のコレクションを所蔵しています。コレクションの中には相州伝(そうしゅうでん)「正宗」(まさむね)の作品も。
展示中の日本刀は所蔵の一部になりますが、ホームページでコレクションの画像を観ることができます。
メトロポリタン美術館
アメリカ合衆国ニューヨーク市のセントラル・パーク沿いに位置する美術館で、1870年に開館しました。幅広いコレクションで、絵画、彫刻、工芸品、武器、楽器、写真など300万点の美術品を所蔵。
日本刀の他、三所物(みところもの:小柄[こづか]、笄[こうがい]、目貫[めぬき]の3種)も多数所蔵しています。
2009年には、日本刀・甲冑をはじめとする武家文化を紹介する「アート・オブ・サムライ展」が開催され大盛況でした。
現代では、日本刀が登場する洋画も観ることができます。以下ご紹介する映画は数十年前に制作されたものですが、こうした人気映画の中で日本刀が扱われることで、海外での日本刀への関心が高まりました。
マトリックス リローデッド
「キアヌ・リーブス」さん主演の「マトリックス リローデッド」には日本刀で車を切る場面が出てきます。
また、「ケビン・コスナー」さん主演の「ボディガード」では、日本刀の上にスカーフをひらりと落としただけで真っ二つに切れてしまうシーンが印象的です。まさに一刀両断。
共演「ホイットニー・ヒューストン」さんが歌うサウンドトラック「オールウェイズ・ラヴ・ユー」(I Will Always Love You)も大ヒットしました。
さらに、カメが日本の忍者風に変身してしまう「ミュータント・タートルズ」は、スローなカメと俊敏な忍者という正反対の組み合わせが面白く、子供達に大人気でした。主人公達は二刀流や釵(さい:琉球古武術で使用される武器)を愛用しています。
スターウォーズ
(ダースベイダージェダイの騎士)
「ジョージ・ルーカス」さんは、「黒澤明」監督の「隠し砦の三悪人」から「スター・ウォーズ」シリーズのアイデアを得たと語っています。
「ダースベイダー」の衣装は甲冑風で、妻の「パドメ・アミダラ」は化粧や髪形、着物や装飾具まで日本風。ライトセーバーを武器にして戦うジェダイの騎士の姿は、時代劇を思わせます。
黒澤明監督の海外での評価は非常に高く、アメリカ合衆国の映画評論サイト「ロッテントマト」(Rotten Tomatoes)では、代表作「七人の侍」がTOMATOMETER(批評家満足度)100%、AUDIENCE SCORE(一般観客満足度)97%という驚異的数値を維持しています。
また、スター・ウォーズシリーズ・スピンオフTVドラマ「マンダロリアン」は、「ジョン・ファヴロー」さん監督によるものですが、日本の時代劇「子連れ狼」を参考にしており、孤高の賞金稼ぎ「マンダロリアン」と強力なフォースを持つ「ザ・チャイルド」が行動を共にするうちに絆を深めていく人情味溢れるドラマです。
最近では、アメリカ合衆国・サンフランシスコ、シカゴ、タンパ、オーランドなど各地で日本刀の「ソード・ショー」が定期的に開かれており、ポーランド国立博物館やメトロポリタン美術館で開催された日本刀の特別展も大盛況で、国内外で高く評価されています。
フランスとスペインでは「エヴァンゲリヲンと日本刀展」が行われて人気を博し、「大刀剣市」(だいとうけんいち:全国刀剣商業協同組合が主催する刀剣販売会)には、アメリカ、ヨーロッパを中心に外国人の訪問が増加傾向です。
また、ロシアの「プーチン大統領」が当時首相だった「安倍晋三」(あべしんぞう)さんに「村正」(むらまさ)の日本刀を贈呈、米俳優「スティーブン・セガール」さんが南米ベネズエラの「マドゥロ大統領」と会談し日本刀をプレゼント、といった報道もありました。日本刀の魅力は今後、アジア・アフリカ・中東地域にまで世界的に広まって行くことでしょう。
最後に、海外の日本刀コレクターである「ウォルター・エイムズ・コンプトン」氏をご紹介したいと思います。ウォルター・エイムズ・コンプトン氏は、アメリカ合衆国出身の医学博士でマイルズラボラトリーズの社長ならびに会長を務めた人物です。
ウォルター・エイムズ・コンプトン氏は、14歳の頃に読んだ少年誌で日本刀に関心を持ち、プリンストン大学在学中にチャイナタウンで6ドルの日本刀を購入したことをきっかけに、日本刀を研究し収集するようになります。
1963年、ウォルター・エイムズ・コンプトン氏は偶然ピッツバーグで「太刀 銘 国宗」(たち めい くにむね)を発見。それが実は終戦後の混乱で行方不明になっていた島津家伝来の国宝だったのです。ウォルター・エイムズ・コンプトン氏は太刀 銘 国宗を購入し、他7振の日本刀と合わせて、日本へ無償で返還しました。
「名刀には在るべき場所が自然に決まっている。私物としておく物ではない。」という潔い彼の言葉には、武士道に通じるものがあります。刀は武士の魂と言います。その魂は、人種、空間、時代を超えて共感できる、世界共通の魂であるのかもしれません。