「笠覆寺」(りゅうふくじ)は愛知県名古屋市南区にあり、「十一面観世音菩薩」(じゅういちめんかんぜおんぼさつ)を本尊とする古刹です。その起源は733年(天平5年)とされ、一度荒廃したものの、のちの930年(延長8年)に復興しました。1,200年以上の歴史があり、良縁と福運のご利益を求めて多くの人々が参詣に訪れます。また、笠覆寺は江戸幕府初代将軍「徳川家康」ともゆかりがあり、重要な出来事が起きたとされる場所。「笠覆寺と徳川家康」では、その縁起と見どころの他、徳川家康との関係についてご紹介します。
笠覆寺
笠覆寺は「尾張四観音」(おわりしかんのん)のひとつに数えられる、由緒ある古刹です。尾張四観音は笠覆寺、「甚目寺観音」(じもくじかんのん:愛知県あま市)、「荒子観音」(あらこかんのん:愛知県名古屋市)、「龍泉寺観音」(りゅうせんじかんのん:愛知県名古屋市)の4寺院を指します。
「名古屋城」(愛知県名古屋市)が築城された際、尾張四観音が四方に位置することから、尾張国(おわりのくに:現在の愛知県西部)を守護する寺院として、崇敬を集めてきました。
笠覆寺では、観世音菩薩のうち、十一面観世音菩薩を本尊としています。十一面観世音菩薩は、頭に11の顔を持つことから、あらゆる方向を見渡し、人々を苦しみから救済するとされている仏。この世での救済を示す「十種勝利」(じゅっしゅしょうり)、あの世での救済を意味する「四種功徳」(ししゅくどく)のご利益をもたらすとされています。
尾張四観音のひとつである笠覆寺は、733年(天平5年)に「小松寺」(こまつじ)として創建された、長い歴史を持つ寺院です。しかし一度荒廃し、930年(延長8年)に公卿「藤原兼平」(ふじわらのかねひら)の手によって復興しました。復興に際しては以下の逸話が伝えられており、「結びと縁の寺」として知られているのです。
平安時代、御堂もなく野ざらしになっていた観音像を見付けた女性が、自身の笠をかけて、雨をしのげるようにしました。そこへ京からやってきた公卿・藤原兼平が通りかかり、女性の行いを見て惹かれます。その後、京にて藤原兼平と結ばれた女性は「玉照姫」(たまてるひめ)と呼ばれるようになりました。藤原兼平と玉照姫の夫妻は、めぐりあわせのきっかけとなった観音像に感謝して御堂を建立。笠を覆った寺院、すなわち笠覆寺となりました。藤原兼平と玉照姫の位牌は、現在に至るまで大切に笠覆寺で安置されています。
また、この逸話で玉照姫が笠をかけた観音像は、733年(天平5年)頃に、僧侶「禅光上人」(ぜんこうしょうにん)が、川岸へ流れ着いた夜に光る不思議な流木を材料として、十一面観世音菩薩を刻んで造った物。のちに御堂を建て、小松寺として開創しました。禅光上人の逸話も含めれば、1,200年を超える歴史を持つ寺院なのです。
徳川家康
徳川家康は、幼少期に人質として過ごした時期がありました。三河国の戦国大名で徳川家康の父「松平広忠」(まつだいらひろただ)が、織田家による圧力に対抗するため、「海道一の弓取り」と称された「今川義元」と同盟を組んだことがきっかけです。その同盟のため、人質として今川家へ送られることになったのが、竹千代(たけちよ:のちの徳川家康)でした。
1547年(天文16年)8月に、岡崎(現在の愛知県岡崎市)を立ち今川家へと向かう竹千代でしたが、道中で「田原城」(たはらじょう:愛知県田原市)城主の「戸田康光」(とだやすみつ)に裏切られ、織田家へ送られてしまいます。思いがけず、敵方となる織田家の人質になってしまったのです。
しかしその後、1548年(天文17年)に、今川義元によって織田信広が捕らえられます。それにより、織田家には今川方の竹千代が、今川家には織田方の織田信広がそれぞれ捕らわれたことで、人質交換の和議(わぎ:話し合い)が成立しました。
徳川家康と織田信広、両者の人質交換の場所となったのが笠覆寺です。現在、笠覆寺の境内には人質交換之地の石碑が立っています。
徳川家康とゆかりのある笠覆寺ですが、人々からの崇敬を集めるきっかけとなったのは、1610年(慶長15年)の名古屋城の築城でした。その四方に位置する笠覆寺の笠寺観音、甚目寺観音、荒子観音、竜泉寺観音を尾張四観音として定めたことで、暦に応じて恵方(えほう:吉とされる方角)にあたる寺院が移り変わり、その年の恵方に該当する寺院への崇敬と参詣が増えたとされます。
笠覆寺の施設情報 | |
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所在地 | 〒457-0051 愛知県名古屋市南区笠寺町上新町83 |
拝観時間 | 24時間(受け付けは8:00~16:00) |
電話番号 | 052-821-1367 |
定休日 | なし |
拝観料 | なし |
駐車場 | あり(無料15台) |
交通アクセス | 名鉄名古屋本線「本笠寺駅」より徒歩4分 |
公式サイト |
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