浜松(現在の静岡県浜松市)は、「徳川家康」が29~45歳という人生の中間期を過ごした重要な場所です。生まれ故郷の岡崎(現在の愛知県岡崎市)をあとにした徳川家康が拠点とした「浜松城」(静岡県浜松市中央区)をはじめ、徳川家康の命を救った伝説のクスノキがある「浜松八幡宮」(静岡県浜松市中央区)など、徳川家康の息遣いが感じられる市内の名所は枚挙に暇がありません。2023年(令和5年)のNHK大河ドラマ「どうする家康」では、主役を演じる「松本潤」さんの熱演も話題となり、ますます注目が高まっている徳川家康とゆかりの地・浜松についてご紹介していきます。
浜松城
1572年(元亀3年)、破竹の勢いで遠江国を侵攻していく武田軍に対し、徳川家康は浜松城での籠城戦に備えます。
ところが進軍する武田軍は、浜松城を素通りして浜名湖沿いにある「堀江城」(現在の静岡県浜松市中央区)を目指しているように見えたのです。
このときの武田信玄の目的については、籠城する徳川家康をおびき寄せるためという説のほか、水運の重要拠点であった堀江城を落として浜松城への補給を断つ狙いがあったとも言われています。
浜松城を出て武田軍を追撃することになった徳川家康ですが、その動きを予測していたかのような武田軍からの猛攻撃を受け、決死の撤退を余儀なくされてしまうのです。これを「三方ヶ原の戦い」と言い、徳川家康唯一の負け戦とされています。
多くの将兵を失いながら浜松城へ戻ると、徳川家康はすべての城門を開放してかがり火を焚きました。そして湯漬けを食べ、そのまま高いびきをかいて眠ってしまったと伝えられています。そんな徳川家康の落ち着きを取り戻した姿を見て、徳川家康軍の将兵は安堵したとされる一方、浜松城まで追撃してきた武田方の「山県昌景」(やまがたまさかげ)の軍勢は、開いている城門を見ると、これは罠に違いないと考え、追撃を断念し引き上げていきました。
山県昌景を疑心暗鬼に陥らせ退却させた徳川家康のこの作戦を「空城の計」(くうじょうのけい)と言います。
浜松城の拡張・改修は1582年(天正10年)頃におおむね完了しましたが、徳川家康は1586年(天正14年)に本拠地を浜松から駿府(現在の静岡県静岡市)へ移すことになりました。
豊臣政権下の1590年(天正18年)からは豊臣家臣の「堀尾吉晴」(ほりおよしはる)とその次男「堀尾忠氏」(ほりおただうじ)が浜松城に入ります。1600年(慶長5年)の「関ヶ原の戦い」ののち、堀尾氏は出雲国(現在の島根県東部)富田へ移封され、江戸時代には譜代大名(関ヶ原の戦い以前から徳川氏に仕えていた大名)が代々の浜松城主を務めました。この歴代城主の多くがそののち江戸幕府の要職に就いたことから、浜松城は「出世城」と称されることになります。
どうする家康 浜松大河ドラマ館の展示一例
浜松城は明治維新後に廃城となり解体されますが、1950年(昭和25年)に城の跡は「浜松城公園」として整備され、1958年(昭和33年)には鉄筋コンクリートで天守が復元されました。
現在、天守は資料館として徳川家康や戦国時代を偲ばせるゆかりの品々を展示。また、城のまわりは豊かな木々に囲まれ、桜の季節には花見客でにぎわいます。
さらに、NHK大河ドラマ「どうする家康」の放送に合わせて「どうする家康 浜松 大河ドラマ館」がオープン。
2023年1月22日(日)~2023年2月28日(火)はプレオープン、2023年3月18日(土)~2024年1月14日(日)はグランドオープン期間となっています。
「どうする家康」に登場した衣装や甲冑(鎧兜)の複製品展示、ミニ映像など、期間限定の特別な展示が目白押しです。なお、2023年3月1日(水)~2023年3月17日(金)は展示入れ替えのため休館となっていますので、ご注意下さい。
浜松城の基本情報 | |
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所在地 | 静岡県浜松市中央区元城町100-2 |
営業時間 | 8時30分~16時30分 ※入場は10分前まで |
休館日 | 12月29~31日 |
入場料 | 大人200円 ※中学生以下・70歳以上は無料 |
1570年(元亀元年)に引間城(曳馬城)へ入った徳川家康は、城を拡張・改修して浜松城とし、もともと引間城だった部分は江戸時代になると米蔵として利用されることになりました。
明治維新後、浜松城は廃城とされますが、1886年(明治19年)に、静岡藩の元幕臣で浜松城代も務めたことがある「井上延陵」(いのうええんりょう)によって、引間城の跡地に「元城町東照宮」(もとしろちょうとうしょうぐう)が建立されます。東照宮とは、東照大権現(とうしょうだいごんげん)たる徳川家康を祀る神社で、元城町東照宮の主祭神も徳川家康です。
昭和に入ると、弁護士で浜松市議会議員でもあった「大石力」が、元城町東照宮を地域住民のよりどころとなる神社とするため、所有権を井上延陵の孫から譲り受け、1936年(昭和11年)には、元城町への権利の移行が完了。ところが、「第2次世界大戦」中の1945年(昭和20年)、浜松は2度にわたって空襲を受け、元城町東照宮は石造りの鳥居を残して本殿などが焼失してしまいます。
1958年(昭和33年)、社殿は鉄筋コンクリート造り、銅板葺きの権現造りにて再建されました。境内には、主祭神である徳川家康だけでなく、「豊臣秀吉」も16歳から3年間浜松で過ごしたと伝えられることから、「二公像」と呼ばれる徳川家康と豊臣秀吉の像が置かれています。この二公像と一緒に写真を撮ると出世運がアップするとされ、元城町東照宮は出世のパワースポットとしても話題を集めているのです。
浜松元城町東照宮の基本情報 | |
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所在地 | 静岡県浜松市中央区元城町111-2 |
参拝時間 | 年中無休 |
浜松八幡宮(本殿)
「浜松八幡宮」は、「仁徳天皇」(にんとくてんのう)時代の3~4世紀頃に創祀(そうし:その神社の起こり)され、平安時代の938年(天慶元年)に現在の静岡県浜松市に遷座(せんざ:御神体・仏像を移すこと)されました。
浜松城にほど近く、鬼門(北東の方角。陰陽道で邪気が出入りする方角)の方角に位置していたことから、浜松城を拠点とした徳川家康は浜松八幡宮を鬼門鎮守の氏神として信仰し、たびたび参拝していたと伝えられています。
浜松市の中心部にありながら豊かな森に囲まれた浜松八幡宮。勝負運や立身出世、縁結びを願う多くの参拝者に「八幡さま」として親しまれています。そんな浜松八幡宮の境内には、「雲立のクス」と呼ばれる樹齢1,000年以上のクスノキがあり、徳川家康にまつわる伝説が残されているのです。
雲立のクス
三方ヶ原の戦いで武田信玄軍に敗れ、敗走を強いられた徳川家康は、途中で浜松八幡宮の前にあったクスノキの洞(うろ:大木や岩の空洞)へ身を潜めました。
おかげで追撃をやり過ごすことができたそのとき、このクスノキから瑞雲(ずいうん:吉兆を表す雲)が立ち上がり、神霊が白馬を駆って浜松城へ向かったと言われています。
それを見て勇気を取り戻した徳川家康は八幡宮を徳川家の祈願所と定め、神馬や弓などを奉納し、武運長久を祈願するようになりました。
雲立のクスは現在、御神木とされ、徳川家康が潜んだ洞も見ることができます。
浜松八幡宮の基本情報 | |
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所在地 | 静岡県浜松市中央区八幡町2 |
アクセス | 遠州鉄道西鹿島線「八幡駅」下車徒歩1分 遠州鉄道バス早出行き「八幡宮」停留所下車徒歩1分 JR「浜松駅」より徒歩10分 |
五社神社・諏訪神社(拝殿)
「五社神社」(ごしゃじんじゃ)と「諏訪神社」(すわじんじゃ)は、JR「浜松駅」の西北西約1kmの浜松市街地にある神社です。もともと隣り合って鎮座していましたが、1960年(昭和35年)に合併しました。
五社神社、諏訪神社ともに1945年(昭和20年)6月18日、第2次世界大戦中の浜松空襲により焼失。現在の社殿は1982年(昭和57年)に再建された建物です。
引間城(曳馬城:のちの浜松城)の城主だった「久野越中守」が城内に創建したことからはじまる五社神社。徳川家康が浜松城へ拠点を移したのち、1579年(天正7年)に三男の「長松」(のちの徳川秀忠)が生まれると五社神社を産土神(うぶすながみ:生まれた土地を守る神社)として現在の場所に社殿を造営し、翌年1580年(天正8年)に遷座しています。
1945年(昭和20年)に戦災で焼失した当時の社殿は、江戸幕府3代将軍「徳川家光」が東照宮を勧請(神仏の分霊を迎えること)して新たに造営した建物で、旧国宝に指定されていました。拝殿・石の間・本殿が一体となった権現造りだったと伝えられています。
諏訪神社は、791年(延暦10年)に「坂上田村麻呂」(さかのうえのたむらまろ)が東方遠征に向かった際、敷智郡上中島村(現在の静岡県浜松市中央区中島町)に奉斎(ほうさい:神仏を慎んで祀ること)したのがはじまりとされる神社です。
1556年(弘治2年)、神託により引間城下に遷座され、五社神社と同じく産土神として徳川家に崇敬されることとなります。
1634年(寛永11年)の徳川家光上洛に際し、五社神社とともに東照宮を勧請。1641年(寛永18年)に徳川家光の命により現在の場所に社殿が造営され、遷座しました。
権現造りの社殿をはじめ、楼門、唐門、透塀(すきべい)も1938年(昭和13年)に旧国宝に指定されましたが、当時の建物は1945年(昭和20年)の浜松空襲で五社神社と一緒に失われています。
五社神社・諏訪神社の基本情報 | |
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所在地 | 静岡県浜松市中央区利町302-5 |
アクセス | 遠州鉄道バス「教育文化会館」停留所下車北へ200m 遠州鉄道バス「伝馬町」停留所下車西へ200m JR「浜松駅」より徒歩10分 |